ポテトサラダ

今週のお題「いも」

 冷凍食品のハンバーグ、コーンクリームコロッケ、手作りの茶色い卵焼き。料理下手な私の母が作る、茶色一色の品数が少ないお弁当です。アルミに包まれた、クラスで一番を争う大きさのおにぎりからは、昆布がニョキニョキ外へ逃げ出そうとしていました。ひとりっ子で家事をせずに育ち、20歳で私を産んだ母にはそれが精一杯でした。

 中学生になり部活動が始まると、お弁当を作らなければいけない機会が増えました。初めて土曜日に一日練習があった日だったと思います。人生で初めて、私は自分でお弁当を作ってみることにしました。彩りが良くて品数の多い、ずっと憧れていた人に見られても恥ずかしくないお弁当です。あの日から十年以上経ちますが、いまだに何を入れたのか覚えているくらいそのお弁当は輝いていました。

 ハムとチーズを重ねて丁寧に丸め、最後に楊枝でぷすり。ハムチーズ巻き。茶色くならないように丁寧に丁寧に作った甘くて黄色い卵焼き。特売品で買ったそのスーパーで一番安いウインナー。冷凍食品の中で一番好きな占い付きミニグラタン。そして私の理想のお弁当にしてくれるのが、ポテトサラダでした。

 ハム、きゅうり、にんじん、チーズの入った、オリジナルだけどなんの変哲もないポテトサラダです。でもこのなんの変哲もないポテトサラダが、私のお弁当ではとても大切な存在でした。彩りの良さは憧れたお弁当の必須条件であり、赤青黄色が入ったこのポテトサラダは完璧に満たしています。汁漏れもしないし空いたスペースに自由自在に詰められるそれは、お弁当初心者である私の救世主でした。出来上がった初めてのお弁当はとてもキラキラしていて、憧れていたお弁当そのものでした。前日の夜に作ったのですが、しばらく冷蔵庫に入れられずに色々な角度から眺めていた程です。

Oisix(おいしっくす)

 そのお弁当で初めてポテトサラダを作ってから今まで、何度も何度も作ってきました。けれど何度作っても、あの日のポテトサラダを超えることはありません。今考えると、母には申し訳なかったなと思います。料理が苦手なりに私のために作ってくれていたことには友人の母親と変わりありません。むしろ自分がお弁当を作ってあげる側になった今、彩りの良い友人たちのお弁当よりも茶色一色の焦げた卵焼きが入っているお弁当の方が愛情を感じる気もします。

 あの日のポテトサラダを超える日が来るとしたら、それは娘に作ってもらったポテトサラダを食べる日かもしれません。その日が来るまで、これからも私はポテトサラダを作るたびに母の愛情を思い出すでしょう。